この記事では、品質管理の方法論である、シックス・シグマの初級者向け研修に参加してきた経験を書いています。PMBOKの品質マネジメントや、問題解決技法としてぜひチェックしてみてください。

PMBOKを読んだり、PMP試験対策をしていると、品質管理に関するキーワードを沢山知ることになります。とはいっても、品質管理で使う表や手法の名前を覚える程度にとどまっていて、実際に職場で使えるレベルまで詳しくは理解できていないことでしょう。

先日、会社の研修で、品質管理手法のあれこれを学ぶべく、2日間のシックスシグマ研修(ホワイトベルト)に参加してきました。研修で学んだ品質管理のあれこれをご紹介します。

 

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はじめに:シックスシグマとは?

PMBOKで品質マネジメントを学ぶと、シックス・シグマという用語がでてきます。

品質管理などは、平均値の±3σ(シグマ)内に99.7%が入る、というアレです。

工場とか製造業では、この品質管理を専門にやる仕事があって、シックス・シグマという資格すらあります。PMPのような試験を受けて取得するわけではなくて、実践を通じて、黄帯、緑帯、黒帯といった、段位を受けるようになっています。私が受講した研修は「2日間の研修を終えたら白帯を授ける」というものでした。

シックス・シグマの黒帯保持者は、組織の品質改善活動の中心となることができる人で、緑帯の人はそれを補佐して品質改善をすすめることになっています。品質管理(主に工場)の仕事にかかわっている人は、詳しく調べたり、資格取得を目指してみると良いでしょう。

シックス・シグマにはDMAICという考え方が基本にあるそうです。

  • Define (定義)
  • Measure (測定)
  • Analyze(分析)
  • Improve/Innovate(改善・改革)
  • Control(管理)

つまり、定義して、測定して、分析。それを改善・改革して管理する、頭文字をとってDMAICです。さらにこれを日々(daily)実践する、つまりdDMAICが大事とのことです。

 

私が受講した研修は初心者(白帯)に、シックスシグマを活用した品質活動ではどんなことをするか、概要を理解してもらう、といことが目的でした。

 

シックスシグマの研修:情報収集が大事

ここでは、研修において行ったワークショップをいくつかご紹介しましょう。シックスシグマの考え方に馴染むために効果的な演習でした。

 

演習1:しっかりと状況を見ているか

研修でははじめに動画を使ったテストをしました。

”Count how may times the players wearing white pass the basketball?”

「シャツを着た人たちは、何回バスケットボールをパスしましたか?」

という問題です。英語がわからなくても、音声が聞こえなくてもできる簡単なテストなので、ぜひ動画を見て考えてみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=vJG698U2Mvo

できましたか?

ネタばれになるので、詳しくは動画を見てください。情報を集める、という一つの事象に注目しすぎると、大事なことを見落とすこともあるという例です。

 

演習2:正しいコミュニケーションできているか?

続いて講師が受講者に問題を出しました。

「車通勤している部下が、車が動かないから出社できないと言ってきた。さて、どうする?」

 

いわゆる問題解決の質問です。受講者は色々な考えを述べました。

  • どうして動かないのか聞く。ギアがパーキングのままなのでは?
  • 警告やパンクしてないか(機械の問題)を調べる
  • 前にも同じことがあったか確認する。(その部下はサボり常習では?)
  • 家から働けないか聞く
  • 公共交通機関や友人に乗せてもらえないか聞く
  • 駆けつけて調査する(家が近ければ可能)

続いて、講師からのフィードバックです。問題を分析する、影響範囲を分析することは大事。さらに現場をチェックする事も大事ということでした。そして「これが問題の真相です」と表示した写真は、車が庭の池の中に沈んでいる写真でした。

 

プールに沈んだ車

ギアや故障を疑う以前の問題だったんですね。しっかりコミュニケーションして状況を把握していないと、英知を絞った挙句に見当違いの対応策を出してしまう、という教訓でした。

ただ、受講者があげた対策のなかから、「前にも同じことがあったか確認する(遅刻の常習犯では?)」という回答を秀逸としてあげていました。過去をしっかりチェックして、問題を解決する際に、再発防止策まで考えないと同じミスをまた犯す可能性があるからということです。

 

演習3:現実的な指標を設定できているか?

続いて演習をしました。チームに分かれて、箱の中に入っているビーズを取り出すというゲームです。箱の中のビーズのほとんどは白いビーズです。ただし、白いビーズに交じって、黒や青のビーズが含まれています。スプーンでビーズをすくうと、うまい具合に50個だけビーズがすくえるので、これを別の箱に入れて、色を仕分けします。

ビーズすくい

 

受講者全体のなかからCEO役を1人選出して、残りの受講者でチームに分かれました。各チームで、50個ビーズを取り出したときに、含まれている「白くないビーズ」の数の少なさを競いました。工場の作業を模したもので、白くないビーズが不良品、という想定です。チームにはビーズを取り出す係、取り出されビーズのうち「白くないビーズ)」を数える係、そして監視係の3人がいました。

途中で、講師が「現在のトップは不良品(白くないビーズ)が12個未満だから、12個未満だったチームは追加点を獲得できる!」と宣言します。みんながんばるのだけど、取り出すときに色を選べないので、結果はあまり変わらず。

さらに進行役は「次は10個以上白くないビーズが混ざっていたら失格です」と続けます。とはいえ、自分たちでは何もできません。その結果、ほとんどのチームが失格しました。

終了後、講師が質問を投げかけてきました。

「追加点と失格の条件が追加されたときに、それぞれの係の行動は変わりましたか?」

ビーズを取り出す係、白くないビーズを数える係、監査係、それぞれの回答は「ノー」でした。目標が設定されたところで、自分たちでどうにもできないからです。しかし、一人だけ「失格になりたくなかったので、申告する数をごまかした」というチームがでてきまた。

この演習は、改善目標を立てるとき、データを見ずに非現実的な数値を立ててはいけない。そうしないと不正をする人も出てきてしまう、ということでした。

 

シックスシグマは分析を行う

もう少しビーズの演習を掘り下げます。シックスシグマ、そして品質保証活動を行う上で意識したいのがデータの分析です。PMBOK5版でいうところの、「品質コントロール」プロセスのツールと技法、「QC7つ道具」が出てきます。

 

管理図を使った品質管理の分析

各チームの結果をグラフにプロットしました。これがQC7つ道具の一つ、管理図(Control Chart)です。

管理図のイメージ

 

数式にあてはめて、平均値と標準偏差(6σ)を算出します。今回の演習では、不良品は平均12で、下限(平均マイナス3σ)が2、上限が18(平均プラス3σ)となりました。

なので、10個以上不良品が出たら失格、というのは統計的に非現実的なゴールだったね、とみんなで納得しました。

また、不具合が発生したとき、上限・下限(2個~18個)だった場合は、正常の範囲だということです。この範囲で不具合を減らそうとしたら、通常の分析(Common Analysis)が必要となります。たとえば、プロセスがおかしいとか、機械に改良の余地をするとかです。

次に、異常値についての説明がありました。もし上限を超えたり下限を下回る値が出た場合、実験などでは「異常値」として無視したりすることもあるけれど、そんなことはせずに、どうしてその値が発生したのかSpecial Analysisをしましょうね、ということです。

不良品ゼロだったら、もしかすると嘘をついているのかもしれないし、不良品40個だったら何か間違えてる(指示を間違えてる?) などの特異な不具合が発生しているかもしれないからです。

 

パレート図を使った品質管理の分析

管理図の次は、同じくQC7つ道具の一つ、パレート図です。

パレートの法則は皆さんご存知かと思います。20:80の法則といったりします。多い順に並べていって、上位20%が80%の価値を持っている、という法則です。

 
パレート図のイメージ不具合(白でないビーズ)は、色々な色があったので、不良品として発生したビーズの色を多い順に並べました。その結果、不具合の40%は赤色、30%は黒色のビーズであることが判明しました。

この演習では、ビーズは色が違うだけなので、「白以外のビーズを除去してからすくう」という解決策があるのだけど、もし色ごとに対処法が違うのであれば(たとえば赤色だけ磁石にくっつくとか)、多いやつから解決することを考えるとよいでしょう。

 

実際の世界では、1%しかない不具合でも、毒が混入しているから許容できないこともあります(宇宙兄弟の弟のエピソードなど)。反対に、1%の不具合を減らすだけで売上が伸びることもあるでしょう。パレート分析をしていると、「一番多い、40%もある赤色のビーズから手をつけるべきでは?」「いえ、赤の除去には多額の設備投資が必要ですが、不具合の20%を占める黄色のビーズ除去は追加コスト0円でできるから先にやりましょう」とかそんな議論もできるわけです。

DMAICに対比させてみましょう。

  • Define (定義) …白くないビーズを減らそう
  • Measure (測定) …50個取ったら何個白くないの?
  • Analyze(分析) …どのビーズを除去しよう?費用対効果は?
  • Improve/Innovate(改善・改革) …ビーズ除去を実施する。
  • Control(管理) …除去したビーズが増えていないかちゃんとチェックする。

 

この他にも、石川ダイアグラムや、なぜなぜ分析、A3用紙を使ったまとめ、などを学びましたが、スペースの都合と、私の研修メモがここで途切れているので、一部の紹介にとどめておきます。

 

まとめ:シックスシグマを学んでみよう!

プロジェクトマネジメントというのは比較的泥臭い仕事です。イレギュラーな事ばかり起こります。それでも、PMBOKといったフレームワーク・ベストプラクティスを使うことで比較的うまく扱えるようになるのは、勉強を進めていくとわかるとおもいます。

工場などの品質管理などは、プロジェクトマネジメントに比べると、比較的「型」があるので対処しやすいかもしれません。でも、その「型」をちゃんと覚えておかないと全く歯が立たないでしょう。そのためにシックス・シグマなどの方法論を身につけることが大事です。

正直、プロジェクトマネージャーとして、シックスシグマの専門家になる必要はないと思います。でも、覚えていれば絶対にプロジェクトを進めていく上で、品質改善・品質担保に関する的確なアドバイスをチームにすることができるはずです。まずは1-2日の研修などで学んでみてはいかがでしょうか?